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星を継ぐもの

出版社
東京創元社
発売日
1980年5月23日
読了日
2025年4月10日
本の評価
★★★★☆

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コミュ強の天才主人公

matryo

matryo

1977年に発表されたSF小説の金字塔。

2028年。月の裏側で真っ赤な宇宙服をまとった男の死体が発見された。調査の結果彼が死んだのはなんと5万年も前だとわかった。彼はどこから来たのか? イギリス出身の原子物理学者ヴィクター・ハント博士がその謎に迫る。

50年近く前に書かれたものなので、以降、本書にインスパイアされたであろうSF作品はメディアを問わず数多あるだろう。2025年のわたしはそれらの作品を吸収した上で読むので、結末やそれに至る展開もややありふれているように感じられてしまう。1977年に新鮮な脳みそで読みたかったな。

しかし本作はエンタメ作品として現代でも十分に通用する面白さ。プロローグやエピローグの映像的な描写、人物の細かいキャラ設定、宇宙船や建造物、機器類の詳細な書き込み。最近だとアンディ・ウィアー作品とかがそうだけど、初めからVFXを使いまくった映画になるのが想定されているかのよう。でもこれデビュー作らしいからさすがにそんなこと考えてなかったかな。

1977年の人がSF小説の形に出力した2028年(もうすぐ)の世界を読むのは答え合わせをしているみたいで面白かった。やはり、当時の人からしたら、老若男女が小さい板状のデバイスを持ち歩く未来は想像だにできなかったんだろうな。テレビ電話は登場するが携帯電話やスマホは出てこない。会議中に誰もノートPC開かないし、書類の受け渡しはすべて紙。ファックス健在。そしてみんなやたらと煙草を吸う。

事実と証拠を積み重ねて、じわじわと真実に迫っていくところはミステリー小説として楽しめるが最後の最後まで理詰めで終わらせてほしかったな、という気もする。序盤に登場した重要と思われる人物が中盤であっさり退場したり、触れらられた(重要そうな)エピソードがあまり回収されなかったりもする。

個人的な好みとして、本作の主人公が最初から天才で周囲の人望も厚いところがとてもよい。わたしはあんまり主人公の成長譚が好きじゃない。最初から成長しててほしい。あと、「周囲との軋轢がありながらも信念を曲げずに真実を追及する孤高の科学者」みたいな設定も好みではない。基本的に人と人が争ったり、人がしいたげられたりするのを見たくない。人間関係のストレスが苦手すぎるので創作においても味わいたくないのだと思う。

その点本作の主人公ハント博士は、登場した時点で天才科学者として名を馳せていて周囲からの人望も厚い。天才だけど気さくでコミュニケーション上手、上司や同僚からの信頼を得るスキルがある。わたしの脳内ではマーティン・フリーマンが演じていた。

登場キャラが魅力的な作品は大好物なのでシリーズ続編も読んでみることにする。